
望郷舞踏宴
オーライフジャパン第四张专辑 柑橘系プログレッシヴ打ち込み職人・まさみティー氏による東方インストアレンジ第四弾。 前作「東方温泉祭」で披露したバラエティに富む民族音楽ごった煮路線を継承しつつ、もはやベテランの域に達するDTM作家ならではの実験精神にも事欠かない、中身の濃いCDだ。 "舞踏"の字のあるとおり、今回はヨーロッパの様々なフォークダンス音楽に主な題材を求めた模様だ。そのせいかアップテンポ中心の、いつにも増して"躁"の部分を感じさせるような、目まぐるしく派手に展開する場面が目立つ。 初っ端からフィドルが賑々しいTr.1"ツェペシュの幼き末裔"は、選曲の珍しさもあるが、アイルランド音楽に現代プログレをブチ込んだ様な曲想で、いきなりインパクト十分。ドリアン旋法とエオリアン・メジャーという特殊音階を使い分け、アイリッシュかつ調子っ外れな雰囲気を出している。この曲に象徴されるように、欧州民俗音楽には欠かせないフィドルの打ち込みに力が入っているのも、このアルバムの聴き所だ。 お得意のピアノを効果的に使ったTr.2"無何有の郷"は軽快なジャズ/フュージョン風味だが、タップシューズの音を打楽器ソロ代わりにするとは意表をつくアイデア。Tr.3"ブクレシュティ~"のトリッキーな5拍子アレンジは、コンパクトながら躍動的な雰囲気がLAUあたりに近いものがある。Tr.5"天空の花の都"ではラディカル・トラッド風な切り口でオーライフらしい変化球だ。テクノ+ロック+スコットランドといった具合で、ギターのパワーコード上で鳴り響くバグパイプが歪ませたシンセリードのようにも聴こえ、不思議とロック度が増していると思うがどうか。 全曲中最も筆者を唖然とさせたのが、おそらく本作の目玉Tr.6+7(永夜抄2面曲アレンジ)に尽きる。出だしのブルガリア民謡の打ち込みにも驚かされるが、まさか現地のウェディングバンド風アレンジを試みるとは…。かなりポップ寄りで、本場のアクの強さは少なく聴きやすいが、バルカン系変態リズムが入っていることには変わりない。それでもきちんと原曲のテーマを生かしアレンジとして成立させる力量には開いた口が塞がらない(笑)。また、Tr.8"妖々跋扈"はクレズマーやジプシーブラスなどのロマ音楽がヒントになったと思しき、これまたマニアックな一曲。HMP5↓、フリギア旋法とハンガリアン・ジプシー音階との特殊な合成音階などが使用され、増二度音程の響きが胡散臭くも面白い。 総じて、民族音楽風アレンジとはいえ、ありがちな音楽性でお茶を濁すのでは終わらない辺りにオーライフらしい個性を感じる。方向性なり着眼点なりが大胆で、ものによっては原曲破壊気味なのは留意しておきたい部分だが、多様性を孕みつつもアルバムが拡散する少し手前で留めておくアレンジの絶妙さは流石。これだけ色々なことをやっていても難解さは少なく、コスト的にも十分お釣が来るクオリティと言っていい。次は一体どんな手で攻めてくるのか、ますます楽しみなサークルである。 -- 蝦夷の人 (2009-04-30 22:59:07)